「スピークイージー」とは、アメリカの禁酒法時代にもぐり営業をしていた隠れ酒場のこと。「こっそりと酒を注文する」、というのがこの名称のが語源です。「スピークイージー・エールズ&ラガーズ」のブルワリーロゴに使われている大きな目玉の絵は、もぐりの酒場に入店する際、やって来た客が常連かどうかを確認してから扉を開ける為に、のぞき窓からのぞく目玉をモチーフにしたもの。禁酒法時代後半の1929年、ニューヨークには約32,000軒の「スピークイージー」がありました。禁酒法廃止前年の1932年には、全米に22万軒近くあったといいます。多くは、洋服屋、床屋、薬局、さらには葬儀屋の奥の一室で営業したり、のぞき窓付きの地下室で営業していました。ニューヨークの高級レストランバーとして今も健在の「21クラブ」(マンハッタン52丁目)の地下の酒蔵(セラー)は、そうしたスピークイージーの超高級店でした。現在もこの店を訪れると、もぐり酒場時代の隠し扉を名残りとして見る事ができます。
黒い背景に浮かび上がる二つの訝しげな眼。そんな印象的なロゴマークを持つスピークイージー・エールズ・アンド・ラーガーズは、1997年にスティーブ・ブルースとフォレスト・グレイによって開業して以来、かつてブッチャータウンと呼ばれたサンフランシスコの一角で西海岸スタイルの良質なクラフトビールを造り続けています。ブリュワリーの名前の由来は禁酒法時代のもぐり酒場「スピークイージー」から。その名の通り、フラッグシップのビッグ・ダディIPA、プロヒビション・エール、シーズナルのスカーレット・レッド・ライ、タルラ・エクストラ・ペール・エールなど、彼らのビールはいずれも1930年代のギャングを題材にしたものばかり。さらにセールスの求人広告には「ヒットマン募集」の文字が。そのユーモラスなセンスにファンも多く、ネーミングやボトルのデザインにも要注目です。今年の初め、サンフランシスコ・ビア・ウィークに合わせてオープンした新しいタップルームも、中古品を多用したヴィンテージ感あふれる造りで、覗き穴付きの重厚なドアや「急な手入れの時に(press in case of raid)」と書かれた壁の非常ブザーなど、もぐり酒場やギャングの隠れ家感満載のミステリアスな雰囲気で話題になってます。サンフランシスコでも屈指の人気ブリュワリーとなった彼らは生産量、販路ともに拡大中で、今年の5月には全米で8州目となるイリノイ州シカゴでの流通を開始し、実に約4年ぶりとなる日本への輸出も再開しました。